若山陽一対談

旅する写真家・石川直樹氏に聞く
山、写真、そして冒険への思い

旅する写真家・石川直樹氏に聞く 山、写真、そして冒険への思い

2016.05.30

  • 対談

職業は写真家

若山 石川さんは冒険、本、写真と、いずれも素晴らしい実績を残されていますね。初めてお会いしたときに「どれが本職なんですか?」とお聞きしたら、「写真家です」と。

石川 僕は冒険家ではないですよ。「肉を切らせて骨を断つ」という言葉がありますよね。肉を切らせて骨を断って進むことができる人が本当の冒険家ですけど、僕は肉を切られたら痛いから、切られる前に引きます。僕は本当の冒険家にはなれないタイプですね。その直前まで行きますけど。

若山 では、リスクを取るか取らないかというところが、冒険家かそうではないかの線引きだということですか。

石川 そうですね。冒険はリスクを取らなければいけないけど、リスクがでか過ぎたら戻らなければいけないし。そこの駆け引きは難しいんです。そこで行ってつかみ取ってこれたり、死んでしまったりもするんですけど。それが冒険家の性質というか。

若山 そういう意味では、石川さんもリスクを取っていると思いますけど。

石川 でも、やっぱりギリギリなんですよ。旅というのは新しい世界を見ることだと思うんです。新しい世界を見るということは見慣れた場所を飛び出すことです。見慣れた場所を飛び出すというのはリスクを必ず伴う。僕はそのぐらいのリスクはほとんど毎日のように取っていますけど、リスクを取り過ぎて死んでしまう所まではあまり行かない。

若山 石川さんは、そういう意味で職業を写真家とおっしゃっていますけれども。こういう見たことがないような風景を撮る写真家はあまりいないと思います。どちらかというと職業としてよりも趣味というか、自分の好きなことの延長線上で写真を仕事にしているという感じがしますよね。

石川 趣味です(笑)。完全に趣味ですね。

内なるフロンティアを探求

若山 山、海、そして空。その冒険心は次にどこへ向かうんですか?

石川 10年間、北極の村に通って写真を撮ったりしていた時代もありました。懐かしいです。

若山 次は村ですか。

石川 北極圏にあるアラスカの小さな村とか、ノルウェーのほうとか面白かったですね。あとはイヌイットに会いにいったり、昔の壁画を訪ねていって撮影していたこともあります。精神的な意味でのフロンティアみたいな場所に今後は向かっていくのかな。地理的な極地ということよりは、自分の中の極地みたいな場所です。

若山 芸大の大学院にいったことも関係あるのでしょうか。

石川 大学院で芸術のことを学んでいくうちに、内面のフロンティアにも関心の幅が広がりました。

若山 なるほど。イヌイットの村などにいった影響も大きかったですか?

石川 そうですね。アラスカ北極圏の先住民の小さな村にいったら、70~80年間村から出たことのないおばあちゃんとかがいるわけです。その人たちは神話をずっと語り継いでいるんですけど、その神話には世界の成り立ちとかが全部込められていて。小さな村から一歩も出ていないのに、いろんなことが分かっている。そういう人に会うと、世界中いろいろ見て回るのは大切だけど、深く一所(ひとところ)で考えるのも大切だな、みたいな気持ちにもなってきます。

若山 すごい体験ですね。

K2の頂上で写真を撮りたい

若山 もう気持ちは海とか空のほうへは向かわないんですか?

石川 今も好きです。沖縄の島とかへはよく行って写真を撮っています。でも、毎年定期的に通っているハードなところという意味では、ヒマラヤがありますね。

若山 2011年にエベレストに2回目の登頂をしていますね。去年のK2は残念でしたね。

石川 そうですね。K2は世界で2番目に高い山ですが、かなり難しくて。

若山 8000mを超える山の中では、最も難しいんじゃないですか?

石川 一般的にはそう言われています。雪崩や落石がたくさんあって。実際、ベースキャンプにいる間に、むちゃでかい雪崩がボンボン来て、それは本当に恐ろしかったです。自分自身が雪崩に遭ったりとか滑落したとかということは今回はなかったですけどね。でも最後まで登れなかったのは、すごく残念でした。

若山 K2はまたチャレンジされるんですか?

石川 行きたいですね。絶対に行きたいんですけど、今年はちょっと無理かもしれないので、来年以降にまた行きたいですね。

若山 それは写真家として行きたいのか、やっぱりK2に登ってみたいのか、どちらですか?

石川 両方ですね。登山をしていると当然難しい目標に向かっていきたいという気持ちがあって、K2というのは僕にとって大きな目標です。だから登りたいという気持ちはもちろんありますし、そこで写真を撮るんだという強い気持ちも等しくあるので。本当に両方ですよね。

若山 お会いしたとき、いつも「山はもうやめようか」、「これで一応打ち止め」みたいなことをおっしゃっているじゃないですか。でも、ずっと続いているような気もするんですけど(笑)。

石川 やっぱり好きなんだと思います。苦しいけど楽しいという気持ちが強くて、なかなかやめられないですよね。K2を登れたら一区切りしようかと思いましたけど、登れなかったし。だから、もうちょっとやっていこうかなあという気持ちですよね。

高所登山の原点、デナリへの思い

若山 K2以外に今行きたい所は?

石川 行きたい場所は全部行ったから、今はほとんどなくなってきています。20歳のときにデナリに登ったのが僕の高所登山の原点ですから、もう1回ちょっと原点に帰る意味でアラスカに行ってみようかなと、今はちょっと思っているんですけど。

若山 では、デナリに行って何をしたいですか?

石川 デナリで、ちゃんと写真を撮りたいんですよね。

若山 20歳のときにデナリに登ったときもカメラを持っていったんですね。

石川 持っていきました、でもそんなにたくさんは撮ってないんです。まだ一眼レフで撮っていた時代です。

若山 石川さんのデナリの写真を買わせていただきました。あれも良かったですね。

石川 あれは僕のすごく好きな写真で、頂上から頂上稜線を撮った写真なんです。本当に頂上で高山病でフラフラになって。初めての6000mだから高度障害とかよく分かっていなくて。頂上付近から頑張って撮っていたんですけど。こういう(中判)カメラではなかったし、きちんとプロセスを追って下から上に向かって全部撮っていくみたいなことをしていなくて。そういうのを、きちんと撮りたいという気持ちがあります。

いま生きていることが冒険

若山 石川さんの冒険は、海に山に空に、すごいですよね。でも日常の生活の中にも冒険がある、というようなこともお書きになっていますよね。

石川 僕は、行きにくい場所に行くだけが冒険ではないと思っています。見慣れた風景の中からちょっと外に出てみるような行為自体が全部冒険だと思っていて。いま生きているということが冒険だ、ということをよく思っています。

若山 生きていることが冒険。

石川 お母さんが子育てを始めるのも冒険だと思うし、会社を起こしたりするのも冒険だと思うし。ちょっといつもと違うことを始めるというのは冒険だと思うし、日常はそういうことの繰り返しです。だから、人は毎日毎日いろんな冒険をしているのではないかと、率直にそう思っているんですよね。

若山 その冒険というのはチャレンジと同義語ぐらいに考えてもいいんですか?

石川 そうですね。挑戦するというのは何か違う目的に向かっていくことですから、冒険かもしれないですね。

若山 なるほど。いろいろなお話をありがとうございました。当グループの社員の平均年齢は32歳前半ぐらいです。社員からすると石川さんは少し先輩なんですよ。そういう意味で、今日のお話は社員にも刺激になると思います。今日はお忙しい中を本当にありがとうございました。

石川 どうもありがとうございました。

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