トップランナー講演

書家・紫舟さんが体験から得た、世界に通じる
無限の発想とコラボレーションの法則

書家・紫舟さんが体験から得た、世界に通じる無限の発想とコラボレーションの法則

2016.11.10

  • トップランナー講演

各界のトップランナーの方々に講演をしていただくUTグループの社内セミナー。今回の講師は書家・アーティストの紫舟さん。日本の書を世界に通じるアートに変えた、紫舟さんの発想方法とコラボレーションの法則とは。
(講演日:2016年8月)

Profile

紫舟(ししゅー)
書家/アーティスト

パリ・ルーブル美術館地下会場Carrousel du Louvreにて開催されたフランス国民美術協会(155年前にロダンらが設立)サロン展2015にて、横山大観以来の世界で1名が選出される「主賓招待アーティスト」としてメイン会場で展示。2014年同展では「北斎は立体を平面に、紫舟は平面を立体にした」と評され、日本人初・金賞をダブル受賞。
日本の伝統文化である「書」を書画・メディアアート・彫刻へと昇華させながら、文字に内包される感情や理を引き出し表現するその作品は唯一無二の現代アートとなり、世界に向けて日本の文化と思想を発信している。大阪芸術大学教授。

今この瞬間に集中する

紫舟です。どうぞよろしくお願いします。

今日は最近できたばかりの作品をお持ちしました。作品タイトル“夢”と書かれたほうが、「心波立つものを蹴散らせ、意識を今ここに在して夢を成せ」という作品。“挑”は「心波立つものを蹴散らせ、意識を今ここに在して挑め」という作品です。心が波立ち感情に支配されると、意識は過去や未来へいきます。そういった心波立つものを手放して、意識を今この瞬間にだけ集中して、夢を成したり、挑戦をしていくメッセージを込めた作品です。

今日は普段行っている仕事のお話を少しして、こんな発想の仕方で、まだ誰も見たことがない作品を作っているというところまでお伝えしたいと思っています。

「龍馬伝」の題字に込めた思い

私の仕事で分かりやすいところですと、大河ドラマ「龍馬伝」の題字を書いています。このときはコンペでしたので、私が通るかどうか分からなかったんですけれども、こんなふうにプレゼンをしました。

「龍馬伝」 (NHK大河ドラマ2010題字)

まず「龍」という字は、横にたくさん線があります。横棒がたくさんあるとそれだけでも、どしっとし、もう何千年も生きているような感じがします。ここでの龍=龍馬は30代の若さで命を落としています。龍馬の若々しさ、そして龍馬も主演の福山雅治さんも非常に背が高いので、そのイメージを出したいと思い、横に広がりやすい龍をこのように仕上げました。

「馬」は象形文字です。たてがみに当たる部分の筆を止めることなく風でなびかせ、天空を駆け巡るかのように日本中を駆けた龍馬の動きをイメージしています。そして型にはまらなかった龍馬を表現するために、本来はこの中に収まる点を一つはみ出させています。

「伝」という字は、北辰一刀流の免許皆伝でありながら、一度も人をあやめなかった龍馬の太刀筋をイメージして、最後はしっかり止めて峰打ちを表現しています。

感情や状況を書で表現したい

しっかりと考えて作られたものは、長持ちすると信じています。

私が書道家になったころから今も続けているのは、京都、奈良で日本の伝統美や本物の和を学ぶということです。そこから、本物は長持ちする、一流のものはパワーを放ち続けるということを知りました。私自身が書いた書も、そうなれるよう制作しています。

私が書で目指しているところは、お手本のような文字というよりは、それぞれの感情や想いを書で表現したいと思っています。例えば「命」という字を書いたとしても、生まれたばかりの命なのか、それとも命のともしびが消えかかろうとしている人の命なのか。その命を、全て書き分けられるような書家になりたいと思っています。

愛用の筆は羊の首の毛で作った特注製

表現したいことと表現物を、矛盾なく一致させる

書を制作するにおいて大切にしていることは、表現したいことと表現物の矛盾をできるだけなくして一致させていくということです。

例えば一つの文字に対して500種類ぐらい書を制作します。その中から一つを選ぶときに、つい、かっこいいものとか、自分が好きなものを選んでしまいがちです。そうではなく、例えばお客さまが表現したいこと、もしくは私自身の作品であれば、私自身が感じていること、表現したいことを、その書とできるだけ矛盾なく一致しているものを選ぶようにしています。

オブジェと影で表す言葉の意味

これは私、溶接をして鉄の彫刻を作っているところです。

「一人ではないことに気付き 独りであることを知る」

本作は「一人ではないことに気付き 独りであることを知る」という作品です。漢数字の「一人」というのは非常に寂しいんですけれども、私たちは必ず近くに誰かがいて、決して「一人」ではない。そういう意味の「一人」ではなく、独立した唯一の存在という意味の「独り」になるために、自分に向き合っている様子を、彫刻と影が見つめ合うことで表現しています。

文字=平面という常識を打ち破る、書の彫刻

なぜこのように書を彫刻にしたかと申しますと、もともとは私も紙に書を書いていました。海外に出品したときに、拍手はもらえるのですが通用していないことに気付きました。紙に書いた書では国境を越えることが難しい。そこで紙から書を解放してはどうかと。

私たちは、文字は平面で二次元であると思い込んでいて、紙に書かれたものだと信じています。実は私たちが使っている文字は今から3300年前に誕生して、当時は牛とか鹿の骨に彫られていたんですね。まだ紙が誕生していませんし、筆もない時代です。文字は刻んだり、彫られている。ということは、字は立体だったといえるのではないか、という思想で、文字を紙や制約や伝統から解放し、立体にしました。そして立体彫刻はその影を落とすことで、再び文字が平面に至る。立体から平面へと文字の歴史も表現しています。

書の彫刻 フランス国民美術協会展2014 最高位金賞(審査員賞金賞)

書とデジタル、文化とITの融合

文字はもともと刻まれていました。その後、紙が誕生して、筆が誕生して、文字は書くものになりました。そして今はデジタルの時代ですから、0と1で構成されたデジタルの中に文字は融合していきます。

世界には文化だけ秀でた国もあるし、テクノロジーだけの国もある。しかし日本は歴史ある文化と最先端のテクノロジーが融合しており、世界の人たちから見ると、日本は非常に神秘的で魅力的な国です。ですので、本作ではITと文化が融合しています。

「まだ かみさまが いたるところにいたころの ものがたり」

この作品は象形文字を壁に映し出しています。鑑賞者が文字に触れると、もともとの意味に姿を変え、動き始めます。ただ文字が変化するだけでなく、アニメーションが知能を持っていて、相互作用を起こして物語が始まります。

例えば犬は羊を追いかけるとか、鳥は木の枝を見つけて止まるという知能を持ち、映像の中でそれぞれ考えて動いています。鑑賞者にも反応し、象は人を見つけると鼻を上げてあいさつします。犬は人を見つけると近寄りお座りしたりします。

私たちが生きている自然界が相互に作用しあうように、この作品も相互作用を起こし、自然界同様に二度と同じ景色が出ないようになっています。

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